2017年3月15日水曜日

これからの「プライム企業」

防衛産業に身を置くと、「プライム企業」という言葉を日常的に耳にすることでしょう。
本編では、4回に分けてプライム企業についてお伝えしていきます。

 1 防衛産業における「プライム企業」とは ~辞書的な解釈編
 2 官側から考える「プライム企業」と役割
 3 民側から考える「プライム企業」と役割
 4 これからの「プライム企業」 (今回)


これからのプライム企業の姿を、日本国内の官民検討や米国・NATO諸国の
動向などから記していきたいと思います。
(官側:以下では防衛省・防衛装備庁・自衛隊を官側と記します。)

1.国内防衛産業の再編成による強靭なサプライチェーンの構築
2.国際共同開発・輸出
3.プライム企業の事業領域拡大の一例
4.国内民間産業から防衛産業へ
5.Reputation risk (※1)の回避に向かって


1.国内防衛産業の再編成による強靭なサプライチェーンの構築


他の産業と同様に、市場規模が縮小傾向にあれば防衛産業各社も
再編成(規模の縮小)を進めていくと想定できます。

米国を例にすると、通称「最後の晩餐」と呼ばれ、1993年に行われた
国防次官William  J. Perryが行った演説と、その後の業界再編が挙げられます。

同演説では、
“米国において、今後5年以内に国防総省が必要とする軍需会社は半分である”
としました。

その後、米国では軍需会社の廃業・撤退・合併・買収が行われ、
特定の装備システムの受注先が1社または2社となりました。

また、当然のごとく案件毎に落札した企業がプライム企業となりましたが、
同時に受注できなかった企業も有力な1次下請けとなりました。

日本でも、米国同様に再編成および補佐・補完する関係が構築されていくものと
思われます。

一方、現在の日本国内のプライム企業は、企業全体の売り上げに対し
防衛部門の売り上げは平均5%です。

この数値から言えるのは、特機事業や防衛事業を分社化した上の業界再編も
考慮に入れるべきだということです。


2.国際共同開発・輸出


従前の装備品取得の方式である、国内生産・ライセンス生産・輸入のうち、
装備品のブラックボックス化・モジュール化・ソフトウェア化により
ライセンス生産方式はもはや過去のものとなりつつあります。

また高機能化による製品単価の上昇や開発リスク、同時にICTの発展による
装備のNCW化(ネットワークを中心とした戦い)は、
より一層、国際共同開発へと歩を進める必要が出てくると想定できます。
   
一方、防衛装備移転三原則により、防衛装備品の輸出も検討するべきですが、

 ①海外へ提供可能な情報の整理
 ②必要に応じたダウングレード品の設計・製造
 ③運用方法などソフト的要素の協力の検討や、相手国の産業発展への寄与

など、検討する要素は多数あります。

そのため、早期の国際共同開発・輸出に対し、過度な期待を寄せることは
できないでしょう。


3.プライム企業の事業領域拡大 


プライム企業の事業領域拡大の一例として、第5の領域であるサイバー空間での
実例があります。

ノースロップ・グラマン社は2016年6月、サイバー空間でのセキュリティ向け
仮想演習装置「J-CORTEX」を、NEC社および三菱商事社と提携して
開発・納入すると発表しました。
NEC社も同日に発表しています。


4.国内民間産業から防衛産業へ


正面装備以外の分野での可能性について述べます。

①補給業務分野
 米国では、ロジスティックス企業のノウハウを取り入れることにより、
 補給能力(ジャストオンタイム、棚卸など)の強化を進めています。
 日本国内には、世界でも有数の品質を誇るロジスティックス企業があります。

②商用ICT分野
 通信のTCP/IP化やOA化(オープンアーキテクスチャ)が進んでいます。

このことは、COTS (※2)利用の更なる促進やPC・スマホ・ゲーム機などを
装備に使用する親和性がより高まっていると言える状況です。
米国では、ゲーム機のモーションキャプチャー技術を取り入れた装置による
訓練が実際に行われています。

このようなイノベーションによる防衛産業界の活性化が期待されます。
また、RFP(Request For Proposal:提案依頼書)ではなく、
RFI(Request For Information:情報提供依頼書)をより多く、
官側から公示することが期待されます。


5.Reputation riskの回避に向かって


既存のプライム企業であっても、収益のメインではない防衛産業のために
リスクをとることは、慎重にならざるを得ません。

CI(コーポレートイメージ)戦略として現時点では、
「防衛産業に寄与する企業」であるとマスメディアに広告宣伝することに
ためらいがあることは事実だと思われます。

このことは今現在、防衛産業においてプライムではない企業においては
尚更のことと思われます。

しかしながら、
我が国の防衛産業の意義を政治・経済・文化のあらゆる場面で発信し、
不断の努力を続けていくことが多くの方の理解につながり、
ひいては防衛産業に参加することが企業の利益になると考えます。


今回はこのあたりで終わりにしたいと思います。
加筆・修正は失礼ながら随時あるかと思います。ご容赦ください。


(※1)
Reputation riskとは、企業に対する否定的な評価・評判が広まることによって、
企業の信用・評判が悪化するリスク

(※2)
 COTSとは、Commercial Off-The-Shelf:
民間のソフトウェア製品やハードウェア製品などを利用すること